H29卒業文集「風に立つライオン」【原稿】 ― 2018/03/01

風に立つライオン
「担任の先生がよく言っていることは何ですか?」
面接で生徒が質問されたときに困らないように、自分の決め台詞を考えないと…、なんて思って数年。
私が行きついたのは「プラスアルファ」だった。
「いつもの掃除にプラスアルファしないときれいにならないよ。」
「自主勉にプラスアルファしないと点数伸びないよ。」
「部活でプラスアルファの練習をしないと人より上手になれないよ。」
そんなことを語ってきた(つもりです)。
プラスアルファ…日本語だと、「さらに加えて」だと思う。
他人の2倍も3倍も努力することはできないけれど、あと一割くらいなら頑張れそうだし、昨日の自分より1%増やすことはできる。
今回は前回よりもできるように、もう一歩前進できるように。
小学生のときは剣道をやって竹刀を構えていた。中学生になると野球部でキャッチャーミットを構えていた。高校の吹奏楽部ではトランペットを構えていた。大学生になるとカメラを構えるようになった。
いつも何かを構えて、あと一歩、何かに手を伸ばそうとしている自分がいた。
相手に向かって、相手の胸に、相手の耳に、相手の心に、何とか手を伸ばそうとしていた。
そして、剣道から心技体を常に鍛え、整えること、野球から恐怖を乗り越え、正しい判断をすることを学んだ。吹奏楽からは調和と主張、理想と現実、カメラから世界の見方と歩き方を学んだ。
大人になって、道具に頼って人と関わってきた自分に気づいてからは、カメラがなくても人に近づくために、何も持たない自分と向き合い、勇気をふりしぼる毎日だった。
頼れるものは、この、低くて、小さくて、聞き取りにくい、声しかなかったのだ。
何と声を掛けようか、何と言ったら傷つかないか、何を話せば自信がつくか、どんな言葉を使えば分かりやすいか。
あと一言何と言ったらいいか…、言葉と向き合う日々だった。
毎日にらめっこしている手帳には、そんな試行錯誤のメモがいくつも残っている。
小さな頃からの夢を思い出してみると、お寿司屋さん、大工さん、ゲームライター…、中学生のときは小説家、高校生で教師となり、大学ではカメラマン、大学院で「やっぱり教師」となって今に至っている。
幸運なことに、いつも自分には夢があって、それに向かって歩いていた。
夢の一つ一つは泡のように小さな点だけれど、その点が一日一日の点とつながって線となり、振り返ってみると、今の道につながっている。
大学教授に「点で線を書くくらい実験をしろ」と言われたが、それは人生も同じだと、大学を卒業して二十年経って気が付いた。
今でも夢がある。今でも寿司職人には憧れるし、大工さんは尊敬している。
そしていつかは(中二病と笑われそうだけれど)ゲームや本の世界ではなく現実で、世界を救いたいと思う。
まずは目の前の世界を何とかして、仲間を増やすステージにいる。
風に立つライオンになりなさい。
自分の判断に勇気を持ち、結果を謙虚に受け止め、次に向かって全力を尽くす。
そしてできれば、プラスアルファする。人生はその繰り返しです。
時間は有限でも、夢は連鎖しています。
エネルギーは有限でも、宇宙は循環しています。
涙は有限でも、笑顔は伝播しています。
自分の足で立ち、世界を見に行きなさい。
あなた方と一緒のクラスで過ごせたことを、本当に嬉しく思う。ありがとう。
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